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平成22年度 第59回 末川杯争奪法律討論会 論旨 
 中央大学 海川裕太
 
 本問を検討するにあたり、まず結論を述べます。
 第一に、Xは漢方薬を郵送販売することは憲法22条1項で保障され、薬事法37条1項およびその適用が違憲であると主張することが考えられます。
 第二に、Xは顧客の健康が憲法25条1項で保障され、薬事法37条1項が違憲であると主張することが考えられます。
 第三に、Xは郵送販売による売り上げが憲法29条1項で保障され、薬事法37条1項が違憲であると主張することが考えられます。
 
 しかし、いずれの主張も認められません。
 以下、かかる結論に至った経緯を述べます。

 第一に、Xは、漢方薬の郵送販売は営業の自由として憲法22条1項で保障され、市販薬の販売について対面販売を要求する薬事法37条1項は、かかる保障に反し、違憲であると主張すると考えられます。

そもそも、Xの漢方薬の郵送販売は、営業としての側面があるので、営業の自由は、職業選択の自由に含まれると解し、憲法22条1項によって保障されます。 
 もっとも、営業の自由も無制約ではなく憲法13条後段、22条1項に規定されている「公共の福祉」による制約に服します。
 
 では、薬事法37条1項は公共の福祉の制約の範囲内と言えるでしょうか。違憲審査基準と関連して問題となります。
 思うに、精神的自由に対する制約と異なり、経済的自由に対する制約が行われた場合、民主政の過程による自己回復が容易であるため、精神的自由に対する制約に比べて緩やかな違憲審査基準で判断するべきです。
 ここで、さらに経済的自由に対する規制のうち、消極目的規制については、いくぶん厳格な基準が妥当し、積極目的規制については、より緩やかな基準が妥当するものとも考えられます。
 
 しかし、両目的の区別が困難な場合や、それらが併用する場合もあるため、かかる見解は妥当ではありません。
 
 
 よって、目的がいずれとも判断できない場合は、規制態様によって判断すべきです。
 
 そこで、規制態様をみると、本問は一律に対面販売以外を禁じており、強度の制約といえ、厳格に判断すべきです。
 
 そこで、目的が重要で、目的を達成するための手段として、他の選びうるより緩やかな手段はないか、により審査します。

 本件規制の目的は、購入者の医薬品の適切な選択および、適正な使用を確保して国民の健康被害を防止する必要があることです。
 そして、市販薬の副作用が死亡事故などの重大な結果、市販薬を起因とする中毒の相談が多数あるので、本件規制の目的は重要と言えます。

 では、規制目的を達成しうる、他の選びうるより緩やかな手段は存在しないでしょうか。

 ここで、Xは以下のような主張をなしと考えられます。
 現代では、情報技術の発展に伴って、例えばテレビ電話などにおいて対面販売と同等の説明をすることが可能と言えます。
 また、人と向き合うことが困難な消費者に対しても、インターネットであれば、情報提供ができます。
なお、対面販売以外の方法で購入され、使用された薬品による副作用の件数はあまり多くなく、立法事実の存在も疑わしいことから、合憲性の推定も及ばないといえます。 
 よって、他の選びうるより緩やかな手段は存在すると主張することが考えられます。
 また、合憲限定解釈の手法により、当該事例の場合、薬事法37条1項の文言に当てはまらず、法律自体が合憲であるが、法令を適用することは違憲であるとする主張が考えられます。

 では、この主張は適当といえるでしょうか。

 副作用を防ぐには、購入者の細かい症状を把握することが不可欠です。
 具体的には、購入者の年齢、性別その他の身体の特徴などを把握して、それに応じて、使用の適否を的確に判断することが可能となるのは、対面販売に限られるといえます。
 先に述べたテレビ電話においても、カメラの性能、通信状況などに左右され、確実ではありません。
 
 また、医薬品の効用、副作用等の理解がなされずに不適切に医薬品が使用される可能性が高いといえます。
 加えて、インターネット販売で購入した薬による重篤な副作用の報告例が存在することから、立法事実はあるといえ、合憲性の推定は当然に働きます。

 よって、他の選びうるより緩やかな手段が存在するとは言えません。

 また、合憲限定解釈に関しても、電話による販売を対面販売に含めるという解釈は、薬事法37条1項の「店舗による」という文言から文理上解釈できるものとは言えず、合憲限定解釈も認められません。

 よって、当該法令による営業の自由に対する規制は、公共の福祉の範囲内であり、Xの主張は適当ではありません。
 
 もっとも、Xは当該法令をXに適用するに限り営業の自由を侵害し違憲であると主張することが考えられます。
 
 ここで、そもそも法令の適用違憲と言う手法が認められるか問題となります。
 思うに、ある法令の合憲限定解釈が不可能な場合、違憲的適用の場合を含むような広い解釈のもとに法令を当該事例に適用することは妥当ではありません。
 しかし、他方で法令全体を違憲とすることも立法府に対する裁量を尊重するという観点から、問題があると言えます。
 そこで、かかる法令を当該事例に適用する限りにおいて違憲と判断する適用違憲の手法は認められるべきです。
 
 そして、適用違憲の手法が認めれるかは、憲法上保護された行為に対する制約は必要最小限度でなければならないという憲法13条の趣旨に照らし、当該行為への適用が法令の目的に適合しているか、処分が法令の目的に照らし必要か、処分によって得られる利益と失われる利益との間に均衡が取れているかを総合衡量して決すべきです。
 
 上記の基準にあてはめて、本問を検討します。
本件法令の目的は、医薬品の使用者に対して、説明責任を果たし、副作用を防止することにあることから、対面販売に限定する手段と、目的は適合しています。 
 
 次に、本件規制が法令の目的に照らし必要か、検討します。
 
 この点、Xは対面販売以外の方法でも、国民の健康は害されず、現状の手段が必要最小限とは言えず、適用違憲の余地があると主張することが考えられます。
 しかし、国民の健康は基本的人権の尊重に大きく資するものであり、手段における効率性、利便性という観点で判断することは妥当ではありません。
 一方で、一見過剰とも思える当該法律の手段は、これに十分資するものであり必要性があると言えます。
 最後に、本件規定によって得られる利益を検討します。
 処分によって得る利益は、副作用被害から免れることにあり、逆に失う利益は、Xの売り上げの3分の1に過ぎず、Xの生活自体を圧迫するわけではありません。
 
 加えて、二年間という猶予期間を与えていることから、Xは徐々に郵送販売から通常の対面販売に移行することが可能とも言えます。
 

したがって、本件規制は適用違憲とは言えず、Xの主張は認められません。 
 
 第二に、Xは、第三者に代わって、薬事法37条1項が第三者の生存権を侵害するとして憲法25条1項に反し、違憲であると主張できないでしょうか。
 ここで第三者は、Xから漢方薬を購入していた、簡単にXの薬局に来店できない遠方の人や高齢者を指します。
そこで、Xは、 薬事法37条1項によって、第三者はXから漢方薬を購入することができなくなり、その健康が害されることから、かかる主張することが考えられます。
 
 そもそも、Xが、第三者の権利侵害を主張できるのかが問題となります。
思う[法学会6]に、違憲審査制の性質は、付随的審査制であるため 、当該事件の解決に必要な限度で違憲審査がなされれば十分と考えられ、第三者の権利侵害を主張することができないのが原則です。
 しかし、違憲審査制には憲法保障的側面もあります。
 そこで、第三者が自らの権利侵害を主張することが困難な場合には、例外的に第三者の権利侵害を主張することができると解すべきです。
 
 本問では、遠方で簡単に来店できない人や高齢者が生存権を侵害すると主張することが困難であるという事情は汲み取れません。
 したがって、Xは薬事法37条1項が第三者の生存権を侵害すると主張することはできません。

 第三に、Xは、郵送販売による利益が財産権として憲法29条1項で保障され、薬事法37条1項は、かかる保障に反するとして違憲であると主張できないでしょうか。
 ここで、財産権とは、財産的価値をもつすべてのものを指し、その中には営業活動の結果得られた金銭、すなわち売り上げも含まれると解します。
 
 本問では、Xの漢方薬の販売による売り上げも当然、財産的価値を有すると言え、憲法29条1項の財産権により保障されます。
 ところで、]は薬事法37条1項によって郵送販売ができなくなると、売り上げが3分の1減少します。
 これは、当該規制により売り上げの一部が取り上げられたと言え、財産権侵害が認められる可能性があります。
 よって、Xは、薬事法37条1項が憲法29条1項の保障に反し違憲である主張すると考えられます。

 では、この主張は適当と言えるのでしょうか。
 
 ここで、昭和62年4月22日判例によれば、財産権とは「各人が現に有する具体的な財産上の権利」とされています。
 この点、将来得られうる金銭は、「現に有する具体的な」ものとは言えません。
 本問では、Xは、2011年5月末日以降、現在と同様に3分の1の売り上げの減少が見込まれるとは言えず、またその売り上げは「現に有する」財産上の権利とも言えません。 
 よって、]の主張は適当とは言えません。

 なお、付言するに以上の判断は、現在の医薬品の副作用や、情報通信技術を前提としているため、新たな状況に応じて本判断の見直しが計られる可能性を含みます。
 
 以上より、冒頭の結論に至りました。
以上
 

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