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平成19年度 第2回 関東学生法律討論会 論旨 
中央大学 佐野 良昌


 小問1について。

 まず、Aは、建築会社Cに対しては415条前段、634条2項、709条以下に基づき、また、銀行Bに対しては415条前段、709条以下に基づき、損害賠償を請求することが考えられます。
 ここで、契約責任を問うにあたっては、前提として契約の成立が必要です。
 そのため、ABが甲土地の問題点を認識していない本問においては、AB間、AC間の契約が、動機の錯誤として95条により無効となりそうです。
 しかし、A、Bに動機の錯誤はなく、また、そもそもAには主張する利益もありません。
 よって、両契約は成立しているものとして、以下検討します。

 第一に、Aは、634条2項に基づき、無過失責任たる請負人の瑕疵担保責任により、損害賠償を請求することが考えられますが、これは認められません。
 なぜなら、乙マンションの引渡し時点では、物理的、法律的な瑕疵はないからです。

 第二に、Aは415条前段に基づき、損害賠償を請求できないでしょうか。
 まず、Cに、請負契約における債務の不履行がないか検討します。
 この点、乙マンションが瑕疵なく完成し、Aに引き渡されているので、請負契約における、債務の本旨に従った履行があるといえます。
 従って、請負契約における債務に不履行はありません。

 では、Cが甲土地の問題点を説明しなかったことが、債務不履行とならないでしょうか。
 Cに説明義務が認められるか問題となります。
 そもそも、私的自治の原則から、契約における責任はすべて自己が負うものである、という自己責任の原則が導かれます。
 ですから、契約締結における情報収集は本来、当事者の自己責任でなされるべきです。
 しかし、当事者間で情報量、情報収集能力に差がある場合においてまでも、かかる自己責任を徹底すると、自己の想定しない義務まで負うことになり得、かえって私的自治が害されることとなります。
 そこで、かかる不均衡を是正するため、信義則上の説明義務を認める必要性があります。
 もっとも、この例外的な義務を広く認め過ぎないために、当事者間に特段の事情がある場合にのみ、説明義務が認められると考えます。
 まず、本問において、Cは建築会社であり、建築実務に携わっています。
 一方、Aは一般人であり、AC間には情報量、情報収集能力に差があるといえます。

 次に、AC間に特段の事情があるでしょうか。
 この点、Aは、建築資金の7割もの大部分を、西側土地の売却でねん出しようとしています。
 そして、甲土地の問題点は、その売却可能性に強く関わっているため、これは、契約締結を大きく左右する重要事項といえます。
 さらに、Cは甲土地の問題点について知っていた以上、説明による負担はごく小さいものです。
 以上の事情を考慮すると、AC間に特段の事情があるといえます。
 従って、CはAに対し信義則上の説明義務を負います。
 そして、CはAに対し、甲土地の問題点について説明していないため、Cに債務不履行が認められます。

 では、そもそも、Cの説明義務のような、契約締結前の義務に、なぜ契約責任を問えるのでしょうか。
 この点、本来、契約責任とは、契約に一定の拘束力を科し、当事者間の履行に対する期待を、保護するためのものです。
 そして、履行への期待が発生するのは契約締結時であるため、原則として契約責任は契約締結後に限られてきました。
 しかし、現実の取引においては、契約締結以前の関係においても、相手方を害さないための行為を、当然に期待されている実情があり、また、現在その期待は強まっています。
 このような期待も保護すべきであるため、契約締結に向けた、一定の社会的接触関係に入った以上、契約責任が及ぶと考えるべきです。
 このような理由から、Cの説明義務のような、契約締結前の義務についても、契約責任を問いうると考えます。

では、Aはいくらの損害賠償を請求できるでしょうか。

 この点、Cの説明義務違反と相当因果関係のある損害は、Aが説明を信じたことによる損害であり、借入金7千万円の利息及び遅延損害金、並びに7千万円の捻出のために要した費用です。
 よって、Aは415条前段に基づき、かかる内容の損害賠償を請求できます。
 なお、Aに過失があれば、418条本文により過失相殺されます。

 第三に、Aは709条以下に基づき、損害賠償を請求できないでしょうか。
 この点、709条の要件は、故意又は過失による違法な権利侵害、これと因果関係のある損害です。
 以下、要件を満たすか検討します。

 まず、Cは自己に説明義務が科されることを予見でき、その違反も予防できたので、Cには過失が認められます。
 では、違法性は認められるでしょうか。
 この点、侵害の違法性は、侵害行為の態様のみならず、被侵害利益の要保護性の強弱も加味して、総合的に判断すべきと考えます。
 本問における侵害行為の態様は、契約締結上の義務違反であり、これは本来、民法の予定する義務ではない以上、その違法性はそれほど高いものとはいえません。
 しかし、被侵害利益は、契約における自己決定権であり、個人の自由権に関わるものとして、要保護性は非常に高いです。
 そのため、総合的に判断すると、違法性が認められます。

 以上より、Cには、Aに対する不法行為が成立します。

 では、Aはいくらの損害賠償を請求できるでしょうか。
 この点、Cの侵害行為は説明義務違反であり、これと相当因果関係のある損害は415条前段の場合と同様になります。
 よって、Aは、709条に基づき、借入金7千万円の利息及び遅延損害金、並びに7千万円の捻出のために要した費用を請求できます。
 また、かかる不法行為によって、Aに精神的損害が生じていれば、Aは、それを710条により請求できます。
 なお、Aに過失があれば、722条2項により過失相殺される場合があります。
 そして、Aの415条前段および709条以下に基づく両請求権は競合し、択一的関係となります。

 次に、Aは、Bに対して損害賠償を請求することができるか検討します。

 第一に、Aは415条前段に基づき、損害賠償を請求できないでしょうか。
 この点、金銭消費貸借契約は片務契約であり、Bに契約に基づく債務は存在せず、債務不履行はありえません。
 しかし、Bもまた、甲土地の問題点についてAに対し説明していません。

 そこで、Cと同様、Bにも説明義務が認められないでしょうか。
 Cの場合と同様の基準で判断していきます。
 まず、Bは銀行であり、業務を遂行する上で、担保価値を正確に把握するために、担保となる土地建物が違法かどうかの確認を行う場合があります。
 一方、Aは一般人ですから、AB間には情報量、情報収集能力に差があるといえます。

 次に、AB間に特段の事情はあるでしょうか。
 この点、BはCを紹介するとともに本件計画を立案しており、甲土地の問題点の発生に関わっているため、説明義務を負いそうです。
 しかし、AB間の契約はあくまでも金銭消費貸借契約にすぎず、甲土地の問題点との関わりは直接的なものではありません。
 加えて、Bとしては、土地建物に関することは、建築業者のCが説明するものだと期待するのが当然です。

 もう一つ、説明義務を負いそうな事情として、甲土地の問題点は契約締結において重要な事項だということが挙げられます。
 しかし、建築基準法のような制限規定は数多く存在するため、逐一それについて調査し、説明しなければならないとすれば、Bの本来の業務を著しく圧迫することとなります。
 以上の事情を考慮すると、Bに特段の事情があったとまではいえません。
 従って、Bは、Aに対する説明義務を負いません。
 よって、Aは、415条前段に基づく損害賠償を請求できません。

 第二に、Aは709条以下に基づいて、損害賠償を請求できるでしょうか。
 この点、Cの場合と異なり、Bには説明義務がない以上、なんらの義務違反も認められません。
 従って、Bには過失が認められず、不法行為が成立しません。
 よって、Aは、709条以下に基づく損害賠償を、請求できません。


 小問2について。

 まず、小問1と同様、AB間、AC間の契約の有効性を検討します。

 本問では、小問1と異なり、ABCは甲土地の問題点を認識しています。
 そして、AB間、AC間の両契約の最終的な目的は、土地の二重使用が可能となるのを前提とした西側土地の売却です。
 かかる二重使用は建築基準法に違反しますから、両契約は、違法な状況を目的としているといえます。
 そのため、両契約は、正義の観念に反するものだとして、90条の公序良俗に違反し、無効になるかとも思えます。
 しかし、両契約は単なる請負契約と金銭消費貸借契約であり、また、そのあと予定している西側土地の売買契約も、契約自体にはなんら違法性がありません。
 また、土地の二重使用は、法令違反ではあるものの、建築実務上、厳しく取り締まられていません。
 ですから、両契約は正義の観念に反するものとまでは言えないため、無効にはなりません。
 よって、両契約は成立しているものとして、以下検討します。

 では、AはB、Cに対して損害賠償を請求できるでしょうか。
 この点、AB間、AC間の権利義務関係は小問1と同様です。
 そのため、Bにはなんの義務もありません。
 そして、Cは請負契約における債務を履行しており、また、Aに対し甲土地の問題点も説明しています。
 従って、B、C両者ともに義務違反はないので、415条前段、634条2項、709条以下の適用はありません。

 よって、AはB、Cに対し、なんらの損害賠償も請求できず、小問1と結論に違いが生じます。
以上
 

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