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平成19年度 第1回 関東学生法律討論会 論旨 
中央大学 吉川 雅人

 本問を検討するにあたり、まず結論を述べます。

 Aは刑法第249条1項、250条、60条により恐喝未遂罪の共同正犯、204条、60条により傷害罪の共同正犯の罪責を負い、これらは45条前段により併合罪となります。
 Bは240条、60条により強盗傷人罪の共同正犯、199条、203条により殺人未遂罪の罪責を負い、これらは45条前段により併合罪となります。
 Cは240条、60条により強盗傷人罪の共同正犯の罪責を負います。
 Dは236条1項、60条により強盗罪の共同正犯、209条1項により過失傷害罪の罪責を負い、これらは45条前段により併合罪となります。
 甲はいかなる罪責も負いません。
 以下かかる結論に至った理由を時系列順に述べます。


 第一に、ABCが共謀の上、甲を取り囲んで脅迫し、その過程でAが甲の顔面を殴打した行為を検討します。

 ABCの共謀の内容は甲に因縁をつけて金銭を奪うことであり、3人に恐喝罪の共同正犯が成立しないでしょうか。
 この共謀は、反抗を抑圧しない程度の暴行、脅迫を用いて金銭を奪うという内容と評価でき、ABCには恐喝罪の共謀が認められます。
 そして、この共謀に基づき、3人は甲を取り囲んで脅迫しており、共同実行の事実も認められます。
 もっとも、恐喝行為と因果関係のある財物の交付はないので、ABCには恐喝未遂罪の共同正犯が成立します。
 また、一連の恐喝行為の中でAは殴打により甲を出血させており、生理的機能を障害しています。
 恐喝罪と傷害罪とは保護法益が違うため、かかる行為には別個に傷害罪が成立します。

 では、BCもこの傷害について責任を負うのでしょうか。
 この点、ABCの共謀には、甲が要求に応じない場合は暴行を加えるという内容が含まれているといえ、ABCには暴行罪の共謀も認められます。
 そして、傷害罪の基本犯である暴行罪には、傷害結果発生の高度な危険性があるので、3人に暴行罪の共謀があれば、BCにも結果的加重犯たる傷害罪の共同正犯が成立すると考えます。
 よって、ABCの一連の恐喝行為には恐喝未遂罪と傷害罪の共同正犯が成立します。


 第二に、甲が回し蹴りをAの顔面に打ち込み転倒させた行為を検討します。

 かかる行為は、生理的機能を障害しており、傷害罪の構成要件に該当します。
 もっとも、かかる行為は身を護るために行われていることから、正当防衛とならないでしょうか。
 この点、ABCの恐喝は未だ継続しており、Aによる急迫不正の侵害があります。
 また、3人に取り囲まれていることからすれば、甲の行為は唐手技ではあるものの、Aの侵害に対し、身を護るためやむを得ずにした行為といえます。

 よって、甲の行為には36条1項の正当防衛が成立し、かかる行為には犯罪が成立しません。


 第三に、BCが反抗抑圧を目的に甲をナイフで刺して20万円を奪った行為を検討します。

 かかる行為には強盗傷人罪の共同正犯が成立しないでしょうか。
 BCは、反抗抑圧するための手段として、ナイフでの刺突の意を通じています。
 この意思連絡は、暴行脅迫により反抗を抑圧して財物を強取し、その際に故意に傷害も行うという内容と評価でき、BCには強盗傷人罪の共謀が新たに認められます。
 また、BCは強盗の手段として、ナイフで甲を刺し、全治6ヶ月の重傷を負わせ昏倒させているため、共同実行の事実も認められます。
 そして、この時点で、強盗傷人罪は既遂となります。
 よって、BCの、甲をナイフで刺して20万円を奪った行為には強盗傷人罪の共同正犯が成立します。

 なお、転倒したままのAには、強盗傷人罪の共同正犯は成立しません。
 なぜなら、Aは新たに行われた共謀には参加していませんし、また、強盗と恐喝は反抗抑圧の有無という点で大きく異なり、恐喝の共謀があったことのみをもって、強盗の共謀まであったと認めることはできないからです。


 第四に、DがBCらと共同して20万円を奪取した行為を検討します。

 この点、DはBCと共同して財物を奪取しているにすぎないため、窃盗罪の共同正犯となるとも思えます。
 しかし、DはBCの犯行の一連の過程を見た上で、BCの犯行に途中から加担しています。
 そこで、Dは関与前のBCの行為まで責任を負い、BCと同様に強盗傷人罪の共同正犯が成立しないでしょうか。

 そもそも、共同正犯が一部実行全部責任を負う根拠は、数人がお互いの行為を相互に利用し補充し合い、一体となって自己の犯罪を実現していることにあります。
 そこで、後行者が先行者の行為等を自己の犯罪の手段として積極的に利用し、残りの実行行為を他の共犯者と分担して行った場合には、かかる相互利用補充関係が認められ、共同正犯の成立を肯定できると考えます。

 本問において、Dは、さっきからずっと見ていた、俺にもいい思いをさせろ、と言って割り込んできて、20万円を奪取しています。
 これは、自己の財物奪取の手段として、BCの作り出した、甲の反抗抑圧状態を積極的に利用し、強盗の実行行為の一部である、奪取行為を分担しているといえます。
 したがって、個人責任の原則を考慮に入れたとしても、Dは、関与前のBCの行為も含めて、強盗罪の共同正犯としての責任を負うべきです。

 もっとも、Dは甲への傷害についてはなんら加担しておらず、その結果を積極的に利用したとはいえないため、Dに傷害の責任まで負わせることは個人責任の原則に反します。
 よって、Dには強盗傷人罪ではなく、強盗罪の共同正犯が成立します。


 第五に、Bが殺意をもってDにナイフで切りかかった行為を検討します。

 かかる行為は殺人罪の実行行為に当たりますが、死の結果は発生していません。
 よって、BのDに対する行為には、殺人未遂罪が成立します。


 第六に、DがBCへ向けて拳銃を発砲し両者を傷害した行為を検討します。

 本問では、殺意が認定できるような事情は無く、Dに殺意は認められません。
 従って、DのB、Cに対する行為は、それぞれ傷害罪の構成要件に該当します。

 このうち、Bに対する行為には正当防衛が成立しないでしょうか。
 この点、かかる行為は、Bによる急迫不正の侵害に対し、自己の生命を防衛するため行われています。
 また、Dは拳銃という危険な武器を使用していますが、至近距離においてはナイフも高度に危険な武器であるので、相当性が認められ、Dの行為はやむを得ずにした行為といえます。
 よって、Bに対する行為には正当防衛が成立し、かかる行為には犯罪が成立しません。
 一方で、DのCに対する行為には、正当防衛は成立しません。
 なぜなら、Cは何ら侵害行為を行っておらず、急迫不正の侵害の要件を欠くからです。
 しかし、DがCへの傷害行為に及んだのは、Cに殺されると思ったからです。

 このように、主観的には自己の行為が正当防衛であると認識しているDに対して、責任故意を認めることができるでしょうか。
 そもそも、刑法が原則的に故意犯を処罰している根拠は、行為者が犯罪事実を認識することで、自己の行為が違法であると意識して、犯行を思いとどまることができたにもかかわらず、あえて、その行為に及んだことへの非難にあります。
 この点、違法性を基礎付ける事実について錯誤がある場合、行為者は、自己の行為が構成要件に該当すると認識していても、その行為は適法であると意識しています。
 このような場合、自ら犯行を思いとどまる機会は与えられていないので、故意犯としての非難はできません。
 従って、違法性を基礎付ける事実に錯誤がある場合には、責任故意が阻却されると考えます。
 本問において、Dは、Cに殺されると思っており、急迫不正の侵害を誤信しています。
 そのため、違法性を基礎付ける事実に錯誤があるといえ、責任故意が阻却されます。
 もっとも、構成要件的故意が認められる以上、構成要件的過失も認められます。
 従って、Dの行為は過失傷害罪の構成要件に該当します。

 では、かかる行為に、責任過失が認められるでしょうか。
 この点、CはそれまでBと行動を共にしていたとはいえ、何ら侵害行為をしていないのですから、Cによる急迫不正の侵害があったと誤信せざるをえないとまではいえません。
 よって、Dの行為には責任過失が認められ、かかる行為には過失傷害罪が成立します。


 第七に、Dが20万円を持って立ち去っている行為を検討します。

 かかる行為は、BCの占有を侵害したとして、何らかの財産犯が成立するかとも思えます。
 しかし、そもそもBCには平穏な占有が認められません。
 よって、Dの行為にはいかなる犯罪も成立しません。


 最後に罪数を検討します。

 まず、Aの恐喝未遂罪と傷害罪とは併合罪となります。
 次に、B Cの恐喝未遂罪と傷害罪は、強盗傷人罪と混合的包括一罪となります。
 さらに、Bの強盗傷人罪と殺人未遂罪とは併合罪となります。
そして、Dの強盗罪と過失傷害罪とは併合罪となります。

 以上より冒頭の結論に至ります。
以上
 

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