Y部落会は、O県U市の大字Nの地域の住民全員を構成員とする地域住民の自治会である。N地域の居住者は、同地域に居住していること根拠に当然にY部落会の会員とされている。N地域は、古くからの農村地域であって、地域の五穀豊穣と鎮守を祈願するN神社があり、春季、秋季の例祭や、元旦祭、大祓などの行事を神社神道の方式に従って行っていた。
N神社の行事にかかる費用は、これまで賽銭や寄付、寄進、絵馬、破魔矢等の売り上げなどによってまかなわれてきたが、不況の折、賽銭や寄付の金額が激減し、行事の遂行が困難になることが見込まれた。
そこで、Y部落会の会長であるAは、N神社の諸行事を円滑に行わしめるために、平成19年度の部落会の予算に、N神社に対する奉納金およびN神社振興費を計上しようと思い立ち、部落会の幹事会にその旨を提案し、幹事会として部落会総会に提案するよう求めた。Y部落会の幹事であったXは、幹事会でその提案に反対したが、提案どおりに予算は議決された。
そして、総会の議決どおり予算は執行され、N神社に対して、奉納金およびN神社振興費が支出された。納得のいかないXは、Y部落会の予算のうち、奉納金およびN神社振興費の比率を計算して、その比率を控除した額を平成19年度の部落会費として納入した。すると、Y部落会幹事会は、会費納入義務を怠ったということを理由に、部落会の規約にしたがって、Xを幹事職から解任した。
そこで、Xは、Y部落会を相手取り、部落会費のうち奉納金およびN神社関係費の支出に相当する比率の部分の納入義務がないこと及びXの幹事職解任が違法であることの確認と、解職によって被った精神的侵害の賠償を求める訴えを提起した。
この事例に含まれる憲法上の問題について検討せよ。なお、Y部落会の意思決定手続は同会規約どおりに行われ、Y部落会の訴訟当事者適格については認められるものと前提して考えてよい。
出題 立命館大学法学部准教授 多田一路先生
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