出版社Yは、その発行する月刊誌『月刊Y』で、「殺人事件を起こした少年の素顔」と題し、殺人をおかした少年Xに関する記事を実名、顔写真、年齢、学校名、住所(「○市○区に住む」と書いた)入りで掲載した。この記事は、凶行の様子を目撃者の証言などにより再現しているほか、少年の複雑な生い立ちや過去の補導歴なども明らかにしている。
少年法61条では「家庭裁判所の審判に付された少年又は少年のとき犯した罪により公訴を提起された者については、氏名、年齢、職業、住居、容ぼう等によりその者が当該事件の本人であることを推知することができるような記事又は写真を新聞紙その他出版物に掲載してはならない。」(罰則はなし)となっている。
そこで、法務省は、出版社Yに対して少年法に反するので被害回復措置をとるように勧告を行った。
少年Xは、プライバシー権、名誉権の侵害さらに少年法61条に基づく「実名で報道されない権利」の侵害にあたるとして損害賠償請求に訴えた。
この少年X(原告)の主張に対し、会社Y(被告)は、「出版の自由は憲法21条によって保障されており、国民には「知る権利」がある。その表現行為が社会の正当な関心事であり、かつその表現内容・方法が不当なものでないかぎり、表現行為は違法性を欠き、違法なプライバシー権、名誉権等の侵害とはならないのであって、本件表現はそれに該当する」と反論した。 どちらの主張が正当と考えられるか?
出題 鹿児島大学法科大学院教授 小栗実先生
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