学術連盟 法学会
TOP
法学会とは
委員長より
活動内容
討論会
ゼミ
合宿
講演会
OB会
総会
組織構成
掲示板
リンク
メール メール
討論会

問題へ
 
 

平成20年度 第2回 関東学生法律討論会 論旨 
中央大学 今村 龍矢


本問を検討するにあたり、まず結論を述べます。


小問1は、A社の新株発行が会社法210条2号の不公正発行にあたるので、B社は、発行の差し止めを、同条柱書に基づき請求することができます。

小問2は、B社は、A社による記念品贈呈に対し、会社法上いかなる手段も取れません。

以下、理由を述べます。


まず、小問1を検討します。

本問新株発行が実行されると、B社の持株比率が低下するので、株主総会における過半数獲得を目指すB社は、不利益を受けるとして、新株発行の差し止め請求をすることが考えられます。


本問の新株発行は、法令、定款に違反する事情も無いことから210条1号に基づく請求は出来ません。


では、210条2号の不公正発行にあたるとして同号に基づく請求をすることはできないでしょうか。


原則として、新株発行は、資金調達、業務提携の一手段として経営上有用であり、取締役の業務執行として行うことができるものです。

一方で、募集新株の第三者割り当て発行は持株比率に影響を与えることから、経営支配権維持の手段ともなりえます。

しかし、会社法は、取締役の選任、解任を株主総会の専断事項としています。

したがって、被選任者たる取締役が、選任者たる株主構成の変更を経て、経営支配権維持を主要な目的とする新株発行をすることは、一般的に許容できません。

ですから、会社の経営支配権に現に争いが生じている場面における取締役会の判断による新株発行は原則として不公正発行にあたります。


しかし、株主の判断を待っていては、買収者によって企業価値が損なわれる場合があり、かかる場合の買収者は株主として保護に値しません。


このことから、買収者が真摯に合理的な経営を目指すものではなく、買収者による支配権取得が会社に回復しがたい損害をもたらすこと、つまり濫用的買収者たる事情を、疎明、立証できるときには、企業価値が損なわれるとして、取締役会による経営支配権維持目的の新株発行も例外的に許されるとする考えがあります。

ここで、濫用的買収者とは、たとえば、グリーンメーラー、焦土化経営目的、LBO目的、高値売り抜け目的のように、買収先を食い物にしようとしている場合をいいます。


しかし、実際の濫用的買収者は、直接的に自己の目的を表明するわけではなく、表面上は自己の目的を正当化するような様々な事情を準備し、主張します。

そして、そのような状況で、濫用的買収者たる事情を会社側が、疎明、立証することは困難であると考えられます。

更に、企業価値を高めるか、損なうかの判断等のように高度な経営的判断を要求される場面においては、裁判所は十分に判断できないようにも思われます。

かかる理由から、濫用的買収者たる事情を会社側が、疎明、立証しなくても、取締役会が濫用的買収者であると判断したことの適切さ、誠実さを疎明、立証すればよいとする考えがあります。


しかし、濫用的買収者であることの要件が緩和されることは、本来、企業価値を高める買収者までも濫用的買収者と認定する可能性を生じさせます。


この点、買収によって業界再編が進むことは、資本の集中を生み、経済全体の利益が拡大するので、グローバル社会の中で日本経済が生き残るために極めて有用です。

また、敵対的買収者を容認することで、常時買収者の目に晒される事になるため、会社経営も引き締まり、その会社自体の企業価値向上にもつながります。

よって、敵対的買収であれ、友好的買収であれ、企業価値を高める買収は推奨されるべきです。

したがって、濫用的買収者であることの要件は厳格に判断され、本来、企業価値を高める買収者までも濫用的買収者と認定する可能性は排除されるべきだといえます。


よって、取締役会が濫用的買収者であると判断したことの適切さ、誠実さを疎明、立証するだけでは、足りず、買収者が真摯に合理的な経営を目指すものではなく、買収者による支配権取得が会社に回復しがたい損害をもたらすことを会社側が、疎明、立証しなければならないと考えます。


先ほどの規範に以下本文の事情を当てはめていきます。

A社は経営再建中で資金需要があり、新株の時価発行は、現実に資金を調達できるのですから、資金調達の目的は否定できません。

さらに、A社の主張するC社との業務提携目的も完全には否定できません。

しかし、B社との経営支配権争奪が起こっている状況下において、A社の取締役は、B社提出の取締役の選任に関する株主提案が可決されることに危機感を持っており、もはや支配権維持が主要な目的であるといわざるを得ません。


では、濫用的買収者たる事情は存在するでしょうか。

今回の株主提案において、本件買収を辞任するに至っています。である中することによってまれま甲はA社の役員になることになっており、本件買収は創業者たる甲が自身の地位に固執して、再びA社の役員に返り咲くために行われているようにも思えます。


しかし、B社はA社を傘下におさめることで業務の拡大を企図しています。

B社は関西を中心に活動をしており、関東での業務拡大を狙うにあたって、すでに関東圏に十数店舗の飲食店を展開している会社を傘下に収める事は、きわめて効率的です。

ですから、B社のA社に対する業務提携の申し出は、実を伴ったものといえ、その後の買収行為にも合理的理由があるといえます。


とすれば、甲がどのような感情を抱いていたとしても、B社はA社を食い物にしようとしているとはいえず、むしろ真摯に合理的な経営を目指しているといえます。

したがって、B社は濫用的買収者にあたるとはいえず、A社取締役会による買収防衛策としての新株発行は、許容されるものではないといえます。


以上より、当該新株を発行する前であれば、210条柱書より、B社は発行の差し止めを請求できます。


次に、小問2について検討します。


本問において、A社による贈呈がなされれば、A社側の提案に賛成する票が増える可能性があるとして、B社としては不利益をこうむることから、かかる贈呈を何とかして差し止めたいところです。


まず、A社の記念品贈呈は、株主総会での議決権を行使した株主に対してなされるものであることから、120条1項の利益供与にあたるとして、B社は360条に基づく差し止めを請求できないでしょうか。

この点、A社は議決権を行使した株主に限定して記念品を贈呈しており、株主の権利の行使に関して、財産上の利益を供与しているように思えます。


しかし、そもそも同条の趣旨は、会社財産の浪費を防ぐとともに、会社側が株主の権利行使に働きかけ、株主の意思をゆがめることを防ぐ点にあります。

とすれば、株主の権利行使に影響を及ぼす恐れの無い正当な目的に基づく財産上の利益の供与であって、個々の金額及びその総額も相当な範囲であれば、例外的に違法性を阻却すると解します。


確かに、A社は議決権行使をした株主に限定した記念品贈呈を、あえて委任状合戦の最中に始めており、株主の心理として受けた利益に報いたいと思い、会社提案に賛成しやすくなる不当な目的があるとも思われます。


しかし、A社としては記念品贈呈を多数の個人株主の意向を問う目的で行っています。

より多くの意見を聞くことは、多種多様な意見を汲み取ることができ、将来の企業経営に向けて重要なことです。

また、手段としても、記念品贈呈はA社提案への賛否には関連付けていないことから、株主の心理に極力影響を与えないような配慮を行っており、上記の正当な目的を失わせるものではありません。

また、個々の金額も2500円であり、食事代程度のものですから、社会通念上許容されるといえます。

さらに、前年まで、株主全員に対して2千円から2万円分の商品券を配布していた会社が、一部の株主に2500円を配ったとしても、その総額は、会社財産を揺るがすものではないと考えます。


したがって、当該贈呈は違法性が阻却され、かかる理由による差し止め請求は認められません。


そうだとしても、A社の行った、記念品贈呈は、株主優待制度の名のもとに、正当な手続き無く行われた現物配当といえないでしょうか。

以下、この観点から、検討していきます。

本件記念品贈呈が、現物配当であれば、454条4項より株主総会の決議が必要ですが、決議の行われていない本問においては決議なき違法な配当となり、取締役会の専断的行為であるので、株主であるB社は360条に基づいた差し止めを請求できることから問題となります。

この点、株主優待制度は事実上の利益分配として、配当規制の潜脱となりえます。

思うに、配当において、株主総会の決議が必要とされる趣旨は、株主の自益権であるところの配当を受ける権利を保障することにあります。

しかし、株主優待制度は本質的に株主に与えられたものではなく、会社の株主構成を機関投資家中心とするのか、個人投資家中心とするのか、持ち合いにするのかの選択や、会社のPR活動として利用されるなど、経営者の判断に基づき採用されるものです。

とすれば、かかる経営目的のもとに行われていれば、実質的に配当としての性格を有さず、株主総会決議が不要と考えます。


先に述べたように、A社としては記念品贈呈を多数の個人株主の意向を問う目的で行っています。

より多くの意見を聞くことは、多種多様な意見を汲み取ることができ、将来の企業経営に向けて重要なことですから、十分に経営目的を認められます。


したがって、本件記念品贈呈は経営目的のもとに行われており、実質的に配当としての性格を有しません。

よって、A社の記念品贈呈は違法な配当ではなく、B社は差し止めを請求できません。

以上より、B社の請求は認められません。


以上より、冒頭の結論に至りました。
以上
 

平成20年度 討論会結果一覧へ
 
   
ページ最上部へ ↑