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平成20年度 第11回 新島襄記念法律討論会 論旨 
中央大学 佐藤 祐樹


本問を検討するにあたり、まず結論を述べます。

AR間において、RはAに対して、元本と当初の利息の弁済請求、および平成16年2月19日から平成21年3月5日までの遅延損害金の支払いを請求できます。

BR間において、RはB所有の甲土地に抵当権を実行することができます。また、RはBに対して、不法行為責任として上乗せ利息からAが支払う遅延損害金を引いた額の損害賠償を請求できます。

AB間において、甲土地の抵当権が実行された場合には、BはAに対して、AR間の当初の契約分の金銭を求償することができます。

以下、かかる結論に至った経緯を述べます。

第一に、AR間の法律関係について検討します。

RはAR間の金銭消費貸借契約に基づいて、貸金返還請求ができるでしょうか。
以下検討します。

RはAと金銭消費貸借契約を結んでいますが、その後にAR間の契約を基にBと準消費貸借契約を結んでいます。
では、準消費貸借契約の性質上、基の契約であるAR間の債権債務関係は消滅しないでしょうか。

この点、Bの行為は無権代理行為です。

当該無権代理行為は本人であるAの追認がなければAに帰属しません。

しかし、時効にかかっていたことに関する錯誤を理由に、Rへの返答の錯誤無効を主張していることから、AがBの行為について追認することは考えられません。

 そのため、Bを信頼したRにとって酷とも思えますが、AにはBが委任状を作成したことに関する帰責性は無く、Bに基本代理権も無いため、表見代理は成立しません。


よって、Bの無権代理行為の効果はAに帰属せず、BR間の契約は無効になるため、AR間の債権債務関係は存続します。


ここで、本件AR間の契約は商行為によるものですから、Aの債務は商法522条により消滅時効の期間は5年です。
では、Aの債務に消滅時効が完成しているでしょうか。

この点、本件債務は確定期限付債務なので、時効の起算点は弁済期です。
当該債務の弁済期は平成16年2月18日であり、消滅時効は完成しています。

よって、Aの消滅時効の援用が認められれば、RはAに貸金の返還を請求できなくなります。

では、Aは時効の援用ができるでしょうか。

この点、Aは時効完成後にRの貸金返還請求に対して「今月末までには支払う」と返答しています。
この行為は債務の承認といえます。
では、当該承認は146条の時効利益の放棄に当たらないでしょうか。
この点、同条の放棄は、時効利益を享受しないとする積極的な意思表示と解され、時効完成を知って行うことを前提とすることから、時効完成を知らずにした本件Aの返答は、146条の放棄にはあたりません。

しかし、債権者側から見て、時効完成後に、債務者が債務を承認することは、時効による債務消滅の主張と矛盾する行為ですし、債権者はもはや、時効の援用をしない趣旨であると期待するでしょうから、信義則により時効援用権喪失という法律効果が生じると考えます。
したがって、Aは時効援用権を行使できず、RはAに貸金の返還を請求できるように思えます。

しかし、Aは自らが行った債務の承認の錯誤無効を主張しています。
この主張が認められると、債務の承認自体が無効となるために、AはAR間の債務の消滅時効を援用することができます。
しかし、債務の承認は、内心的効果意思がないにもかかわらず法律効果が生じるという準法律行為であり、特定の法律効果の発生を意図して行う法律行為とはいえません。
ですから、法律行為についての規定である95条錯誤無効は本問における債務の承認について直接適用することはできません。

では、95条を類推適用できないでしょうか。

準法律行為は、行為者の意思にかかわりなく法律効果を発生させるものです。
ですから、準法律行為においては行為者の意思は重要視されません。
とすれば、行為者の意思を保護する規定は類推適用できないと解するのが妥当です。
よって、表意者保護を目的とした95条は類推適用できません。

 したがって、AがRに対してした債務の承認は無効にはならず、前述の通りAは消滅時効の援用権を喪失しているので、RはAに対して、貸金返還請求ができます。

なお、RがAに請求できるのはAR間の契約分、及び平成16年2月19日からの遅延損害金です。
そして、本件債務は商事債務なので、419条1項、商法514条により、遅延損害金は特約が無い場合、年利6%によって定めます。

第二に、BR間の法律関係について検討します。


 まず、RはAに対する債権の回収を意図して甲土地の抵当権実行を通知していると考えられますが、Rは甲土地の抵当権を実行できるでしょうか。


 この点、Aの債務は消滅時効にかかっています。

この債務の消滅時効を援用すると、附従性により抵当権も消滅します。


 では、物上保証人であるBは、抵当権実行を免れるため、主債務の時効を援用できるのでしょうか。

時効の援用権者の範囲が問題となります。


ここで、物上保証人は、時効の援用によって、直接に利益を受けるので、145条によって、被担保債権の時効援用権を有していると解します。


 よって、物上保証人たるBは原則として主債務の消滅時効を援用できます。


 しかし、Aは時効完成後に債務の承認を行い、時効援用権を喪失しています。

かかる債務者の時効援用権喪失の効果が、物上保証人にも及ぶでしょうか。


 この点、時効の援用が当事者の良心に委ねられている事を考えると、時効援用権の喪失も当事者個人の良心に委ねられていると考えられます。

 そこで、主債務者Aが時効援用権を喪失したとしても、物上保証人Bにはその効果は及ばないと考えます。

よって、時効完成後の時効援用権喪失の効果は相対的であり、Aの援用権喪失の効果はBには及びません。


 したがって、Bは主債務の消滅時効を援用できるように思えます。


 しかし、BはAの委任状を偽造し、無権代理人としてAの債務の弁済期限延長を求めています。

これは、債務の存在を積極的に認める行為です。


 一方、物上保証人として主債務の時効を援用することは、債務を消滅させる行為です。

これは、Bが以前無権代理人として行った行為の内容とは矛盾したものといえます。


よって、Bが物上保証人の立場から当該債務の消滅時効を援用することは、1条2項の信義則により、認められません。


 以上より、Bによる主債務の時効援用は認められないので、Rは甲土地の抵当権を実行できます。


次に、抵当権実行ではまかなえない損害についてRはBに責任を問えないでしょうか。この点、Bは無権代理行為をしていることから、Rは117条により無権代理人の責任追及が考えられます。

もっとも、117条の成立には、相手方の善意無過失が必要です。

 本問において、Bの作成した委任状はAの代理を示すものでありながら、店の印が押されており、Aの実印がない点で、委任状の真正さに不審な点が見受けられます。
さらに、1000万円という大金を扱う重要な契約であるため、銀行であるRは本人に委任状の真正を確認する必要があったといえ、それを怠ったRには過失が認められます。

よって、117条は成立せず、RはBに対し無権代理人の責任追及はできません。

 とはいえ、Bの無権代理行為のためにRは上乗せ利息の回収が困難になっています。

かかる損害について、709条により、不法行為責任を追及できるでしょうか。

709条の成立には、故意または過失の存在、権利又は法律上保護される利益の侵害、損害、そしてその因果関係の存在が必要です。

無権代理行為を行えば、相手方に損害を及しうることは一般的に予見しうるので、Bには過失が認められます。
さらにRは上乗せ利息分の返還請求権が行使できなくなっている点で権利の侵害はあったといえ、それにより金銭面での損害も生じています。
そして、Bの無権代理行為がなければ当該損害もないので因果関係はあります。

よって、要件を満たすため、RはBに709条により不法行為責任として損害賠償請求ができます。

ただし、AR間において生じた遅延損害金についてはBには請求できないため、上乗せ利息分から差し引かれます。
さらに、Rには過失があるため、722条2項に基づき過失相殺により請求額は減額できます。

最後にAB間の法律関係について検討します。

BはRが抵当権を実行した場合には、BがAの代わりに弁済したことになるので、372条に基づいて351条を準用し、Aに求償請求をすることができます。

そして、本債務に抵当権を設定するに当たりBはAの依頼を受けて物上保証人となったと考えられるので、委託を受けた保証人の求償権を定めた459条1項に従い、BはAに対して当初AR間で結ばれた契約とその後の遅延損害金の範囲内で求償することができます。

以上より、冒頭の結論に至りました。
以上
 

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