数年前に亡くなった父の跡を継いで、H市で家庭電気製品の販売業を営んでいるAは、隣のN市にも店舗を1軒設けるために取引銀行であるR銀行から融資を受けることを決め、平成11年2月18日、返済を5年後の平成16年2月18日とする金銭消費貸借契約を締結して1000万円を借り受けた。その際、担保としてAの叔父B(Aの父の弟)が所有する甲土地に抵当権を設定することにした。Bは、もともとAの父と一緒にこの家電製品の販売業を始めた共同経営者であったが、その後病気がちになったことや子供もいないこともあって、Aの父が亡くなる前に店の共同経営権をAの父に譲っていた。しかし、それでも元気な時は店の商売を手伝ったりしており、また、父の跡を継いだAのために、しばしば商売上の相談にも乗ってきた。N市の店舗開設も終わり、Aは営業を開始したが、その後近隣に家庭電気製品の量販店が出来たために、売上げは当初の予測に反して伸びなかった。そこで、AはR銀行からの借受金の返済の算段のために日夜奔走していたが、Bは、このようなAの窮状を見て、返済期日前である平成16年2月4日に、Aに何ら相談することなくAの委任状を自分で作成し(委任事項とAの氏名を記入して店の印を押印)、R銀行に返済期日の延長を求めた。Aの父親とBの共同経営の時から取引関係にあり、跡を継いだAの商売の発展を期待していたR銀行は、Aの窮状を見かねて、利息を上乗せすることを条件に期日を5年間延長することに合意した。
その後の平成21年3月2日、R銀行は、Aが借受金を返済しないので、上乗せされた利息に基づいて計算された金額で返済を請求した。これに対して、Aが「今月末までには支払う」旨の返事をしたにもかかわらず、R銀行はその3日後、甲土地上の抵当権を実行する旨通知してきた。そこで、Aはよく考え直してみると、R銀行に対する借受金債務はすでに時効にかかっているのではないか、自分はまだ時効にかかっていないと勘違いしていたと思い直し、「先日支払うと言ったことは錯誤により無効だ」と主張した。
以上の場合において、ABR間の法律関係を説明しなさい。
出題 関西学院大学大学院司法研究科教授 松井宏興先生
|