甲は、貸した金(100万円)を乙がなかなか返さないので改めて電話で催促したところ、乙から「守銭奴」、「人でなし」などと罵られ、口論になった。乙は短気ですぐに暴力を振るうことから、甲は強く催促するのを控えていたのであるが、かくなるうえは乙の自宅に押しかけてでも返済させざるを得ないと考えた。甲は、乙宅に押しかけた場合、乙がかっとなって殴りかかってくるのではないかと思い、それに備えて空手2段の丙に加勢を頼んだ。甲としては、乙が殴りかかってくればその機会を利用して丙の空手技で乙を痛い目にあわせ日頃の鬱憤を晴らそうと考えていたのだが、丙にはそのことは伏せ、単に、乙が万一殴りかかってきた場合には防衛に加勢してくれるよう言うに止めた。丙は、甲から日頃世話になっていることから断るわけにもいかず、できるだけ穏便にことを処理してくれるよう念を押した上で、しぶしぶ同行することになった。甲は事前に乙に対し金を受け取りに行くから用意しておくようにと伝えておいたところ、乙宅に着くと、その玄関に乙の友人の丁も待ち受けており、「帰れ!」などと言いながら、乙はゴルフのクラブ、丁は素手で甲に殴りかかってきた。甲は、最初のうちは身をかわしていたのであるが、2人がかりの攻撃に耐え切れず、ついに丁に顔面を強打されるにいたった。そこで堪らず、後ろに控えていた丙に「やってくれ」と言った。この発言を受け、丙は甲の身を守るためやむなく、まず乙に対しその腹部に軽く空手技の突きを入れた。乙はそれによる苦痛に耐え切れず前かがみに倒れこんだ。ついで丁がその隙をついて殴りかかってきたので、慌てたこともあり、その後頭部めがけ空手技の回し蹴りを思いっきりかけた。そのことにより丁は勢いよく転倒し、意識不明の状態に陥った。それらの行為により、乙は加療2週間を要する腹部等の打撲傷、丁は加療10ヶ月を要する頚椎損傷、頭部挫傷の重傷を負ってしまった。
甲と丙の罪責を論じなさい。
出題 立命館大学教授 生田勝義先生
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