学術連盟 法学会
TOP
法学会とは
委員長より
活動内容
討論会
ゼミ
合宿
講演会
OB会
総会
組織構成
掲示板
リンク
メール メール
討論会

論旨へ
 
 

平成21年度 第1回 関東学生法律討論会 問題 
 A(35才)は、以前からの遊び仲間であるB(47才)に「一仕事あるので、手を貸してくれ。金ははずむ。」と声をかけられ、ある晩、指定されたアスレチックジムの建物に出向いてみると、そこでBに案内された別棟の物置にはジムの専属トレーナーで医師の資格を持つC(42才)、そして街のチンピラであるX(33才)がすでに来ており、そこでは、まさにこれから、Xに対する腎臓摘出手術が始められようとしているところであった。Aは知らなかったことであったが、実は、Bは以前から臓器売買の斡旋を裏の生業としており、今回の摘出手術は、付き合いをしくじってできた暴力団関係者への数百万円の借りを工面する目処が立たないと相談を持ちかけてきていたXに、それならば臓器を売れば金になるとBが持ちかけたものであり、Cはまた、職場で医師の資格が活かされず待遇も良くない我が身の不遇を常々不満に思っていたことから、高額の報酬を約束するBの話を自分の腕が試せて金が入る千載一遇のチャンスと考えてこれを引き受けたものであった。ここに、Aは、詳細を聞かされないまま手術中の助手役として雇われたのであった。Bの今回の「仕事」は、「金に糸目をつけない。いくらかかってもよい」との相手方の申し出のもとに進められていたが、Bは、Xに、腎臓の買い手とは現在値段の交渉中であること、手術自体については失敗の心配等は要らないこと、などを予め伝えており、当日はその納得を得ての手術であった。
 いよいよ手術が開始され、腎臓を摘出したのち患部を縫合し終わったCはXに点滴の措置を施し、点滴が終わったら点滴液パックを交換するようにAに指示して、一休みするべくBとともに部屋の外に出て行った。点滴液が終了したところで、AはCの指示に従って取り替え作業を始めたが、その最中、誤って点滴の針をXの腕から外してしまったAは、どうにか点滴針を元に戻そうとあれこれ試していたが、うろたえるあまり、Xを寝かせてあった即席誂えでベッド様に並べた木箱の端に不用意に足をのせたことから、木箱もろとも転倒し、Xを木箱の簡易ベッドから転落させるにいたった。その結果、施術後間もないXの腹部の縫合部分からは、そもそも十分な術後措置がとられていなかったこともあって、大量の血液があふれ出ることとなった。Aは、大量の出血を目にして驚きひるむとともに、ひょっとしてXは死ぬかも知れないと思うとたまらなく怖くなり、BとCには何も告げないままジムの物置部屋から一目散に立ち去ってしまった。
 その後1時間ほどして部屋に戻ったところで、Aの姿が見えず、一方、Xが木箱のベッドから転落して大量に出血しているのを認めたBとCは、不測の事態が起こったことを察知し、このままでは死んでしまうかも知れないように見受けられるXの身のこの後の処置をどうすべきかしばらくやりとりを交わしていたが、後々ことの次第がバレないとも限らないがやはり、このままにしてXをここで死なせてしまうわけにはいかない、いっそXをどこかの病院付近に運んで自分たちはそのまま立ち去ってしまうのが良かろうとの結論に至った。そこで、両名は、早速その場からXを運び出して近くのY医院の玄関前にXを置き去りにし、その直後に同医院に玄関先にけが人がいるとの電話をかけたところ、Y医院ではXに対して緊急の医療措置が施されたが、その甲斐なく、Xは出血多量で死亡するに至った。
 その後の鑑定によれば、BとCがXにおける大量出血状態を認知した時点で直ちに救急車を呼ぶなどして救命の措置を施していれば、Xの命が助かる可能性は相当程度存在したが、Xの出血の程度、救急医療が施されるまでの所要時間等を勘案した場合、救命が困難である可能性も少なからず存在した。
 A、B、Cの罪責を論ぜよ。

出題 中央大学法科大学院・法学部教授 只木誠先生
 

平成21年度 討論会結果一覧へ
 
   
ページ最上部へ ↑