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平成22年度 第1回 関東学生法律討論会 論旨 
中央大学 中原翔太


 本問を検討するにあたり、まず、結論を述べます。

 Aは、60条、199条の殺人罪の共同正犯と、230条の名誉毀損罪が、45条により併合罪となり、その罪責を負います。
 
 Bは、161条の2、1項、私電磁記録不正作出罪と3項の同供用罪が成立し、これらは手段目的の関係にあるため、牽連犯となり、54条1項後段により、重い罪である3項の同供用罪の刑で処断されます。
 そして、不正アクセス行為の禁止等に関する法律第8条の不正アクセス罪が成立し、先の不正作出電磁的記録供用罪と45条により併合罪となり、その罪責を負います。
 
 Cは、60条、205条の傷害致死罪の共同正犯の罪責を負います。
 
 Dは、60条、205条の傷害致死罪の共同正犯の罪責を負います。
 
 以下、かかる結論に至った経緯を、時系列順に説明します。

 第一に、問題文前段、Aが自分のブログにXに関する文章を書きこんだ行為について検討します。

 Aのかかる行為に、Xに対する230条1項、名誉毀損罪が成立しないでしょうか。

 本問で、ミニブログは、インターネット上に公開され、誰でも閲覧可能であり、不特定または多数人が知りうる状態であることから、公然といえます。
 また、あんな援交してホストにみついでるような、というAの書き込みには、その真偽にかかわらず事実の摘示があるといえます。
 そして、Aの書き込んだ援助交際をするという事実は、一般に道徳上非難されるようなものであるため、Xの社会的評価を低下させる恐れがあり、名誉を毀損したといえます。
 よって、Aの行為にはXに対する名誉毀損罪が成立します。

 第二に、問題文前段、Bの行為につき検討します。
 
 まず、Aに無断でパスワードを用いて、オンラインゲームにアクセスしたBの行為は不正アクセス行為の禁止等に関する法律第3条2項1号に違反し、同法8条の不正アクセス罪が成立します。

 次に、Aのレアアイテムを自分のキャラクターに譲り渡すよう設定した行為に、235条の窃盗罪が成立しないでしょうか。
 本問で、レアアイテムは情報といえますが、情報は無体物であるため財物にはあたりません。
 よって、かかるBの行為に窃盗罪は成立しません。

 では、かかる行為に、246条の2電子計算機使用詐欺罪が成立しないでしょうか。

 同罪の構成要件は、人の事務処理に使用する電子計算機に、虚偽の情報、若しくは不正な指令を与えて、財産権の得喪、若しくは変更にかかる不実の電子的記録を作成し、財産上不法の利益を得ることです。

 本問で、Bは、本来利用権を有していないAのアカウントを使用し、キャラクターを操作していることから、ゲーム会社が事務処理に使用するサーバーコンピュータに、虚偽の情報を与えているといえます。

 では、レアアイテムを自らのキャラクターに渡す行為が、財産権の得喪若しくは変更にかかる、不実の電子的記録を作成しているといえるでしょうか。
 
 この点、レアアイテムとは、金銭を支払うことによってではなく、ゲームの進行上得ることができる情報であって、そのように無償でえられる情報は、財産権の得喪若しくは変更にかかる電子的記録とはいえません。
 
 よって、構成要件に該当しないため、電子計算機使用詐欺罪は成立しません。

 次に、BがAのパスワードを変更した行為に161条の2の1項、私電磁記録不正作出罪および同供用罪が成立しないでしょうか。
 
 同罪の構成要件は、人の事務処理を誤らせる目的で、その事務処理の用に供する権利、義務又は事実証明に関する電磁的記録を不正に作出すること、また、人の事務処理の用に供することです。

 本問では、Bは、ゲーム会社の事務処理を誤らせる目的で、ゲーム会社のサーバーコンピューターに対し、Aがパスワードを変更した事実がないのに、虚偽の情報を送信しています。
 これは、事実証明に関する電磁的記録を不正に作出したといえます。
 また、その記録をゲーム会社のコンピュータで使用しうる状態に置いているため、用に供しているといえます。

 よって、Bのかかる行為は私電磁記録不正作出罪および同供用罪の構成要件に該当し、これらの罪が成立します。

 第三に、問題文後段で、Aが消去した携帯電話のメールや着信履歴、ブログの記事は他人の刑事事件に関する証拠ではないため、104条、証拠隠滅罪は成立しません。

 第四に、AがBに暴行を加え、その後、金属棒でBの頭部を殴打し、死亡させた行為に、199条殺人罪が成立しないでしょうか。

 本問では、Aは金属棒という硬質なもので、頭部という生命活動の維持に不可欠な部位を強打しています。
 かかる行為には、死の結果発生の現実的危険性があり、殺人罪の実行行為が認められます。
 そして、かかる行為により、Bは死亡しているため、Bの死の結果と因果関係が認められます。

 また、Aには未必の殺意があり、Bの死亡結果の認容があるため、故意も認められます。

 よって、Aの行為には殺人罪が成立します。
 そして、これは後述するようにC、Dと共同正犯になります。

 第五に、CがBに対して暴行した行為に60条、205条の傷害致死罪の共同正犯が成立しないでしょうか。
 共同正犯が成立するためには、共犯者間の意思の連絡、すなわち共謀の存在と共同実行の事実が必要です。
 共謀とは、共同意思の下に一体となって、互いに他人の行為を利用して、各自の意思を実行に移すことを内容とする謀議をいいます。

 本問では、A、C、DらはBを少ししめてやろうと、暴行行為を共同して実行する謀議をなし、その共謀の内容は、Bが転倒し、頭から出血するほどの暴行を加えていることから、生命に危険を及ぼす暴行ないし傷害を加えるところまで含みます。

 そして、共犯者の一人であるAの行為によって、Bは死亡しているため、傷害致死罪の基本犯たる傷害行為は行われており、共同実行の事実も認められます。

 もっとも、Cは暴行ないし傷害の共謀しかしておらず、Aの行為によって生じたBの死の結果まで責任を負うでしょうか。
 結果的加重犯の共同正犯が成立するか問題となります。
 
 思うに、結果的加重犯は、加重結果を生じさせる危険性を有する犯罪について特別に規定した犯罪類型であると解します。
 
 とすれば、基本犯の危険が現実化したと認められれば、すなわち因果関係があれば結果的加重犯は成立します。
 そして、共同正犯の場合には、共同した基本犯と結果の因果関係が認められれば、結果的加重犯の共同正犯は成立します。
 
 本問では、Aの行為と死の結果に前述のとおり因果関係があります。
 よって、CはBの致死結果まで負うため、傷害致死罪の共同正犯が成立します。

 なお、Aと同様にCに証拠隠滅罪は成立しません。

 第六に、DがBに殴る蹴るの暴行を加えた行為に、60条、205条の傷害致死罪の共同正犯が成立しないでしょうか。
 
 まず、DはA、Cとの共謀に基づき、Bに傷害を加えていることから、傷害罪の実行行為は認められます。

 ここで、DはA、Cを一旦制止して立ち去っているため、共犯関係からの離脱が認められないでしょうか。
 離脱が認められれば、Dが死の結果の責任を負わないため問題となります。

 思うに、共犯の処罰根拠は共犯者相互が心理的物理的因果性を及ぼしあい、結果発生の蓋然性を高めることにあります。

 とすれば、共犯関係からの離脱はかかる共同した犯罪者間の因果性が解消された場合に認められると解します。

 そして、因果性が解消されたといえるためには、離脱者が、離脱の意思表明と、犯行の制止をし、それ以降共犯者の誰もが、当初の共謀に基づく犯行継続のないような状態を作出すればよいと考えます。

 本問では、Dは、俺はもうやめる、と共犯関係からの離脱の意思を表明しており、ACに暴行の制止もしています。

 しかし、Dは、A、Cを一旦制止したにすぎず、暴行を継続しないよう説得までしたわけではありません。
 また犯行現場の工場跡は、ひと気がないため、第三者による発見が困難な環境でした。
 そのため、A、Cが再びBを暴行する蓋然性は残っていたといえ、犯行継続のないような状態を作出したとはいえません。

 したがって、共犯の因果性が解消されたとはいえず、Dに共犯関係からの離脱は認められません。

 よって、DはCと同様、Bの死の結果についても責任を負うため、傷害致死罪の共同正犯が成立します。
 
 最後に、Aの殺人罪と、C、Dの傷害致死罪は異なる犯罪ですが、それらは共同正犯になるでしょうか。
 
 60条は、二人以上共同して犯罪を実行した、と規定しているため、特定の犯罪を共同する必要があるのか、罪名従属性が問題となります。

 この点、共同正犯の本質論において部分的犯罪共同説を採用し、構成要件的に重なり合う範囲で共同正犯となるとする見解があります。
 
 しかし、この見解によれば、殺人罪の故意を有する者の因果関係を証明できなければ、殺人罪に関しては未遂となり、傷害致死罪の限度で共同正犯となるため、妥当ではありません。

 また、その場合、それらの罪の罪数関係を合理的に説明することが困難です。

 そもそも、共犯の処罰根拠は、法益侵害の惹起にあるため、共同正犯においても構成要件の重要部分の共同さえあれば、法益侵害の蓋然性が高まるため、処罰することができると考えます。
 
 とすれば、構成要件の重要部分が共通の犯罪であれば、罪名従属性を徹底する必要はありません。
 
本問において、殺人罪と傷害致死罪は、人の死という構成要件の重要部分が共通しています。

よって、Aの殺人罪とC、Dの傷害致死罪は共同正犯となります。

 以上より冒頭の結論に至りました。
以上
 

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